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「考える登山者」の育成を…那須の雪崩遭難事故報告書で思うこと [クライミングを復活させたい]

 栃木県の那須岳で今年3月雪崩が発生し、「春山」講習会に参加していた高校生と顧問の合わせて8人が亡くなられました。この事故についてはこのブログにも以前に掲載したことがあります。

 事故の原因を発生直後から栃木県教育委員会の第三者による検証委員会(国立登山研修所の専門調査委員3人を含む)が調査を進め、10月15日に報告書をまとめ発表しました。

 報告書では、学校登山であることから「安全」が第一であり、事故を教師の個人義務に矮小化せず、教育的安全配慮義務として、学校組織体としての組織義務として捉えています。
 事故の原因は複合的で、読み解くのも難しかったのですが、主だった点を以下に列記してみました。

▼根源的かつ最大の要因は主催者である県高体連登山専門部の「計画全体のマネジメント及び危機管理意識の欠如」
・スポーツ庁は高校生の登山は通常12月から2月の冬山登山を原則禁止としている。今回「春山」「講習会」として登山しているが、これは「冬山状態」であることを講師等が直視する目を鈍らせ、事故の遠因となったこと。
・講習会全体の責任体制が整備されていなかった。
・降雪による計画変更についても十分な検討がされなかったこと。過去の雪崩の事例が共有されないままだった。
・班構成における生徒と講師の所属が一致せず、講師が統率力を発揮できなかった。特に一番先頭のグループは、生徒が「もっと登りたい」旨の意向に教師が引きずられた格好だったこと。
・講習会本部は常に無線を携帯せず、また寒さによる携帯電話や無線機のバッテリー切れがあったこと。調査委は発生直後の本部について「役割と機能が全く果たされておらず」「安全への配慮が著しく希薄」であったと厳しく指摘しています。
・保護者等の連絡先一覧が作成されておらず、連絡体制も未整備だったこと。
・ビーコンやプローブを装備せず、シャベルも常に携行していなかったこと。

▼県教育委員会等による「チェックや支援体制の未整備」
・登山計画審査会の審査対象になっておらず、県教委によるチェックはなかった。

▼講師等の雪崩の危険に関する理解不足「個人の資質」
・新雪が積もったばかりであったこと。
・7年前の雪崩事故など過去のヒヤリハット事例が共有されていなかったこと。また気象の情報収集が不十分であり、講師等の雪崩に関する理解が不足していたこと。
・背景として教員の多忙や生徒の減少により、登山部顧問の成り手が少なくなり、顧問の経験が継承されていないこと。

▼背景的な要因として「正常化の偏見とマンネリズム」
・春山講習会は伝統的行事であり、マンネリズムによる陥って「慣れ」があった。

 最後の「マンネリズム」は、実はありそうなことだなと思います。「定例合宿」などは危険が迫っているにも関わらず、「毎年やっていることだから」と判断が鈍る経験は誰しもあるのではないでしょうか。

 報告書には提言も含め、コンプライアンス的な見地から多くのことが書かれていて、全てをやるとなると大変な作業になるでしょう。尊い命が犠牲になっているのですから当然といえば当然ですが、正直なところ「そこまでできるのかなあ」と思ってしまいます。

 また学校登山で生徒に何を学んで欲しいかが、あまり書かれていないなと思いました。実は報告書(本文)の中で、一番頷いたのは次の一節でした。

安全な登山を実施するという観点からも、雪山の危険性を学ぶ必要性は大きい。危険性を強調するあまり冬山登山を全面的に禁止してしまうと、安全な登山に関する技術を習得する場が失われることにつながり、かえって危険性が増すことになりかねない。高校生の冬山登山については、原則的には禁止としつつ、教育上の観点から例外的に実施する場合は、地域差なども考慮して、各都道府県単位で安全性確保のためのガイドラインを策定する等事故を未然に防止するための手段を講じるべきであろう。

 
 次世代の登山者を育てる意味で、冬山(雪山)登山の必要性を指摘しているのです。

 春山講習会もラッセル訓練も、大きな雪崩が起きない樹林帯の低山でもできるのでないか、と私は思います。雪の上でテントを張って、自分たちで気象を検討して、晴れればラッセルして頂上を目指す。登れれば楽しい思い出ができます。登れなければ「なぜ登れなかったのか」を考えます。体力の問題なのか、技術が不足していたのか、装備の問題なのか、天候判断の問題なのか、パーティシップの問題なのか、そもそも計画に問題があったのかなど考えるのです。

 時間はかかりますが「考える登山者」の育成こそが、学校登山の目的ではないかと思うのです。


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RW

今回の指導した若い教諭も登山経験の少ないににアサインされていたようですが、彼も被害者の一人ですよね。当日の判断を誰がすべきだったのか考えさせられる事故でした。安全確保を体験する訓練で死亡事故とはいたたまれせんね。

(PS)一般記事で「ビートルス来日で華開いたグループサウンズ特集」(後編)&「ロック殿堂ミュージアム」(有楽町)のレポートを公開しました。次回の洋楽編はビートルス「マジカルミステリーツアー」50周年特集を掲載します。

by RW (2017-10-30 20:23) 

かばたん

本当に…学校登山の目的が何であるのかを見直す機械にしていただきたいと思います。
HP寄せてもらいます。
by かばたん (2017-11-04 09:28) 

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