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大雪山系・トムラウシ大量遭難を考える [クライミングを復活させたい]

 大雪山系のトムラウシ山と美瑛岳で10人もの人がなくなりました。特にトムラウシ山では18人パーティーのうちガイド1人を含む8人、それに単独行の1人、合計9人が亡くなるというまれにみる大量遭難となりました。

 私は昨夏、クワウンナイ川を遡行してから、トムラウシ山往復~ヒサゴ沼避難小屋方向に歩きました。まさしく今回の遭難現場です。累々とした岩が積み重なり、風をよけるような木々もなく、またスケールが大きいためか通常の遠近感とは違い、すぐ近くに見えるのになかなか到着しなかった思い出が残っています。翌日天人峡へ下山したのですが、風が吹いて辛かったのも覚えています。それだけに今回の遭難は「あそこで吹かれたら相当ひどい」と思うとともに、数多くの疑問点も出てきたので、考えてみました。(写真は2008年のトムラウシ山です。※後日、写真にある北沼から水があふれ出していたことがわかりました)

北沼の向こうにトムラウシ山が見える

 今回の遭難で各報道機関で問題提議されているのは大体以下のようなものです。

◆強行日程ではないのか?

 ツアー会社HPの同じ縦走コースの日程を見ると、以下のようなものでした。

①旭岳温泉宿泊 ②ロープウェイ~大雪山~白雲岳避難小屋(12.5k、8時間) ③ヒサゴ沼避難小屋まで(16.5k、10時間) ④トムラウシ山~トムラウシ温泉(12.5k、10時間半) ⑤千歳空港から帰る 体力★★★★ 技術★★

 山で見かける中高年の皆さんは非常に元気で、後ろから抜かされることも多々あるのですが、私の個人的印象ですが、「これはしんどい」と思います。天気が良くてなんとかこなせる行程に思えるのです。

 パーティーは悪天の中、午前5時半にヒサゴ沼避難小屋を出発しています。コースタイム通りに進んでようやく16時に到着する予定です。あくまでトムラウシ温泉に下山する意識での出発時間だと思われます。

◆防寒具などに問題はなかったのか?

 亡くなられた方の死因は「低体温症」とみられています。これについては「軽装という感じではなかった(遭難パーティ目撃者)」「装備表を参加者に渡していた(ツアー会社社長)」などの話がありますし、ビバーグの準備としてテントを張っています。それに亡くなったガイドが、さすがに軽装だったとは考えられません。しかしツアー会社HPでは避難小屋を利用するツアーでは「安全のため、荷物の軽量化に極力お努め下さい」との記述があります。防寒具が生死を分けた例はこれまでの遭難で数多く指摘されていることから、具体的にどのような防寒具であったのかは気になるところです。

◆天候判断に誤りはなかったのか?

 当時の天候は「雨が降り、日中の気温は8~10度、風は風速20~25m」(帯広観測所)との話が出ています。太平洋高気圧の張り出しで、関東では梅雨が明け(7/14)、関西では暑い日か曇りの日が続いていました。しかしこの間、東北~北海道は低気圧と前線が次々と東に抜けていました。当初から天候が悪い事はわかっていたはずで、しかも7/15夜は北海道を低気圧(988mhp)が通り過ぎたところです。ただ当日7/16の午前5時の十勝地方の天気予報は「曇り昼過ぎから晴れ」だったとのこと。ガイドが「午後から晴れる」と話していたとの証言もあります。

◆ガイドの経験

 今回遭難したパーティーには当初4人のガイドがついていました。しかし次のツアーを待つため60歳の男性ガイドがヒサゴ沼避難小屋に残り、ガイド3人が客15人を引率する形で山行が続行されました。3人のうち1人は広島在住の61歳の男性ガイドでトムラウシ山の経験が十数回ありますトムラウシのコースは初めてでした。また北海道のガイドを含む2人は現地は初めてだったということです、うち一人がこのコースの経験がありました。

◆どうしてもわからないこと…

 ここまで考えて困りました。私が経験してないことがあり、どうしてもわからない部分があるのです。それは「ガイドと客の関係」です。ガイドは金をもらった以上は客を喜ばせたいだろうし、客は「金を払っているのだから敗退なんかありえない」と無意識に考えているのではないだろうかという点です。もしそうならリーダーが自由に意思決定できない、非常に危険なパーティーだと言えます。

 「小屋で天候回復を待つ。エスケープする」など、冷静な判断ができなかった背景には何があったのか?登山というフィールドに金銭関係を持ち込んでいる「登山ツアー」。その際に生じる「ガイド」と「客である登山者」の心理面にも焦点をあてて教訓としていかなければ、亡くなった8人の命は報われないような気がします。日本山岳ガイド協会などは大規模なアンケートでもとってみてはどうだろう?

 北海道警察は業務上過失致死の容疑で捜査を始めたとのこと。いずれにしても生存したガイドと客、ヒサゴ沼避難小屋にとどまったガイドの証言などが疑問を解くカギになると思います。

亡くなられた方のご冥福をお祈りします。

◆関連エントリ
トムラウシ山遭難の最終報告書を読みました(2010/2/28)
NHKクローズアップ現代「“夏山の惨事はなぜ起きた」を見た(2009/7/31)


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